プログラム
大会全体のスケジュールにつきましては「日程表」をご覧ください。各プログラムの概要につきましては「プログラム」をご覧ください。
日程表
プログラム
来日講師による特別講演
招待講演1 ※来日講演
アーロン・ベック先生の情熱:リカバリーを目指す認知療法
Introducing Dr. Aaron Beck’s Passion: Recovery-Oriented Cognitive Therapy
※英語スライド
Paul M. Grant, PhD
Director of Research, Innovation, and Practice at the Beck Institute Center for Recovery-Oriented Cognitive Therapy (CT-R)
ベック研究所リカバリーを目指す認知療法センター
リサーチ・イノベーション・プラクティスセンターディレクター
30年にわたる疫学的研究により、統合失調症などの重篤なメンタルヘルス状態の診断を受けた人は、その他の人口と比べ平均寿命が30年短くなることが明らかになっています。このような早すぎる死の要因としては、繋がりの喪失、目的の欠如、ディスエンパワメント、そして治療への不参加や離脱などが挙げられます。アーロン・ベック博士は私と共に、彼の人生の最後の20年間をかけて、ウェルネスや自己実現を阻害する社会的な要因に対して多大なエネルギー、思考、知恵を注いできました。彼と私が共同で開発した解決策が、リカバリーのための認知療法(CT-R)です。本講演では、ベック博士の情熱について皆様にご紹介します。ベック博士と私が、いかに認知モデルとモードに関する考え方を組み合わせ、リカバリー、レジリエンス、そしてエンパワメントを包括する、柔軟な全人的アプローチを構築したのかご紹介します。CT-Rは協同作業、全人的、そして強みを重視するよう設計されているため、治療者がより多くの個人と関わり、各々が自ら選んだ人生を積極的に追求する手助けをしていくことが可能となります。本講演では、CT-Rの根底にある理論に焦点を当て、最新のエビデンスベースを検証し、事例を通してCT-Rの実践を紹介します。入院、外来、司法領域におけるCT-Rの応用について触れます。また、CT-Rが集団療法において強力な枠組みを提供できること、地域ベースの活動をいかにサポートできるか、そして家族がいかにこのアプローチを使って共に発展していけるかを説明します。そして、この革新的なケアに関する理論、研究、実践に関する次なるステップについて議論します。最後に、Dr. Aaron Beck Outcomes Challenge(アーロン・ベック・アウトカムズ・チャレンジ)をご紹介し、結びのご挨拶とさせていただきます。
招待講演3 ※来日講演
神経症を標的とした心理治療:統一診断横断アプローチ
Targeting neuroticism in psychological treatment: A unified transdiagnostic approach
※英語と日本語のスライド同時映写
Todd Farchione, PhD
Research Associate Professor in the Department of Psychological and Brain Sciences at Boston University (BU)
ボストン大学心理学・脳科学部の研究准教授
不安、うつ、他の広く見られるメンタルヘルス関連障害は、感情についての解釈や調整の不全(i.e.,いわゆる“感情障害”)におもな特徴があり、しばしば併存します。本講演では、神経症気質やその関連特徴が、不安やうつなどの発生と維持に中心的役割を果たすことを想定した機能モデルを紹介します。次に、このモデルから誕生した、統一診断横断治療の概要をお伝えします。この治療は、神経症傾向、特に強い感情体験への否定的評価と回避に関連した共有メカニズムを直接標的とするよう開発されました。大規模なランダム化比較試験の結果など、この心理介入についてボストン大学で私たちが取り組んできたいくつかの研究を紹介します。最後に、この革新的な治療アプローチに関して現在進行中の、そして、今後展開するいくつかの研究を紹介します。
招待講演4 ※来日講演
不安とうつの集団認知行動療法:北欧モデルー過去・現在・未来
Group CBT for anxiety and depression: The Scandinavian model - past, present, and future
※英語と日本語のスライド同時映写
Sidse M. Arnfred, MD, PhD, DMSc, MSc.
Professor of Psychiatry, Department of Clinical Medicine, Copenhagen University
Head of Research, Mental Health Service Region Zealand, Denmark
コペンハーゲン大学臨床医学科精神医学教授、デンマークシェラン地域精神保健サービス研究責任者
北欧では、中等症以上の不安症やうつ病の場合、公的精神保健サービスで心理療法による治療を受けることが市民の権利として認められています。そのため、心理療法は標準化されたプログラムとして公共のサービスに組み込まれています。各患者に対応できるセラピストの時間に制限がありますが、1ヶ月以内の治療開始が保証されています。このようなエビデンスに基づく治療を提供する継続的な努力と結びついて、集団認知行動療法は市中のクリニックにおける不安やうつに対する費用対効果に優れた治療選択となっています。これはまた、様々な地域のガイドラインやNICEで推奨とも合致します。しかしながら、患者の診断の多様性によってプロトコルの数が急増し、プロトコルに基づいたスーパービジョンの余地が減少し、治療の提供が困難になっていきました。このような背景から、いくつかの研究グループが、反すう焦点化認知行動療法や統一プロトコルのような診断横断的な認知行動療法のランダム化比較試験を開始し、これらのプロトコルの有用性が実証されました。しかし同時に、集団療法の効果が不十分であることも(反応率58%、回復率わずか35%)示されています。精神保健サービスの患者は、プライマリ・ケアや大学のクリニックの患者よりも状態が複雑で、また、標準化されたプログラムから利益を得られる患者を選択しようにも、心理療法の有効性を予測する因子は明らかではありません。媒介要因研究と経時アウトカム測定による試みが進行していますが、集団療法は柔軟性が低く、進展がみられないときに提供の仕方をカスタマイズしにくい側面があります。ユーザー体験の研究で確認されているように、リカバリー志向アプローチでは集団療法の利点が示されています。また、共通要因と共有意思決定(shared-decision-making)もまた再度注目されるようになっています。私たちはこれらのアプローチを最新の研究に統合しようと試みており、患者が集団療法の進行についていけなかったり、悪化したりした場合に個人療法を追加して対応する方法を検証しています。現在、個別化心理療法の治療原理に基づいた共有意思決定による追加介入のためのモジュール式のプロトコルを検証中です。現在進行中の研究のもう一つの方向性は、デジタルソリューションの応用です。デンマークでは現在、心理療法のツールとして仮想現実の利用を検証するRCTがいくつか進行中です。不安症に対する曝露療法、統合失調症に対する曝露とソーシャルスキルトレーニング、幻聴に対するアバターを使った曝露療法、自閉症スペクトラム障害と摂食障害の少数例に対する予備研究など、様々な用途に活用されています。
招待講演5 ※来日講演
うつと不安の治療標的としての報酬感受性
Reward sensitivity as a treatment target for depression and anxiety
※英語と日本語のスライド同時映写
Michelle G. Craske, PhD
Professor of Psychology, and of Psychiatry and Biobehavioral Sciences, Kevin Love Fund Centennial Chair, Director of the Anxiety and Depression Research Center
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学、精神医学、生物行動科学教授/同大学の不安・うつ研究センター長
脅威感受性と報酬感受性の機能不全は、うつと不安の脆弱性と発症に関わる中核プロセスである。従来の治療では脅威感受性の低減を標的としており、報酬系が関与する機序への影響は限られていた。報酬感受性についての研究は、精神病理学への理解を深め、標的を絞った治療アプローチにおいて必須となる。このテーマについて、大きく2つの切り口からこれまでの研究を説明する。第1に、神経学的・行動的・主観的な報酬感受性の低さ(特に報酬予期-動機づけ、報酬獲得時への反応、報酬学習)が、不安・うつ・アンへドニアと関連し、予測する最新の知見について示す。これらの知見に導かれ、私たちは報酬感受性を標的とする治療、ポジティブ情動治療(Positive Affect Treatment; PAT)を開発した。そして、PATは不安やうつを有する成人に対して、標準的な認知行動療法よりも治療効果が高いことが示された。最近行った追試験においては、不安とうつを有し、ポジティブ情動が極めて低い人を対象として、PATと標準的な認知行動療法を実施した。その結果、CBTよりもPATのほうが症状の改善がより大きく、その改善は治療標的である報酬予期-動機づけや報酬獲得の増大とともに起こっていた。また、ポジティブ情動への介入の一部をバーチャルリアリティ技術で実施する研究知見も紹介する。第2に、消去学習において報酬関連の苦痛緩和メカニズムを実証した研究者らの知見を基にして、恐怖条件づけや関連パラダイムにおいて、神経学的・行動的・主観的にアンへドニアがいかに関連するか、私たちの最新のエビデンスを示す。さらに、アンへドニアが曝露療法を妨害するエビデンスを示す。最後に、制止検索モデルに基づく曝露療法を増強させるために、報酬を標的として組み込んだ治療モデルを示す。
現地開催ワークショップ
ワークショップ1 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS1】職域における睡眠改善プログラム
-デジタルデバイスを用いたCBT-Iの利用-
※日本医師会認定産業医制度の生涯・専門2.0単位を現地受講でのみ取得可。
田中 克俊
北里大学大学院医療系研究科産業精神保健学
睡眠の問題は、労働者の心身の健康を悪化させるだけでなく、安全や生産性の低下を引き起こしてしまう可能性がある。我が国の調査では、何らかの睡眠の問題を抱える労働者の割合は、30%を超えると報告されており,労働者の睡眠を向上させることは喫緊の課題となっている。
労働者の睡眠向上に対しては、まずは十分な睡眠時間を確保することが重要であることは言うまでもない。しかしながら最近では睡眠の量だけでなく質にも注目が集まっており,現在、厚生労働科学研究「“健康づくりのための睡眠指針2014”のブラッシュアップ・アップデートを目指した“睡眠の質”の評価及び向上手法確立のための研究」が進んでいるところである。
睡眠の質と言っても明確な定義があるわけではないが,徐波睡眠の量の他、睡眠中の自律神経のバランスや呼吸状態が人の健康に大きく関与することが示されている。
本ワークショップでは,睡眠の質向上に寄与する睡眠衛生のポイントと、デジタルデバイスを用いた簡易型の不眠の認知行動療法、また睡眠の質を低下させる睡眠呼吸障害に対する介入について解説し,職域での睡眠改善プログラムの効果的な運用についてディスカッションできればと考えている。
ワークショップ2 【現地】【オンデマンド】
【WS2】理性に癒やされる:認知行動療法の哲学入門
東畑 開人 白金高輪カウンセリングルーム
四方 陽裕 株式会社フェアワーク
認知行動療法には行動療法から始まり、認知革命を経て結実した「科学としての心理学の系譜」がある。間違いない、「認知行動療法は科学の子」である。実際、認知行動療法の歴史においては、従来の心理療法に比して、「エビデンス」が強調されてきた。それらは行政サービスとしての正当性を確保するために必要な科学的態度であるし、効果測定に対して真摯な態度を示していると言える。
しかし一方で、認知行動療法に古代ギリシャより連綿と受け継がれてきた「理性による治療」の系譜を見いだすことができる。ヘレニズム哲学であるストア派において、哲学とはまさしく「生の技法」であり、常に制御の効かない外界と向き合うための実践的営みであった。皇帝マルクス・アウレリウスは戦場で毎夜机に向かい日記をしたため、肢体不自由の奴隷エピクテトスは出来事と思考を区別することで〝真の自由″の獲得を試みた。そこにあるのは「認知を変容することで、生きづらさを和らげ、適応的な行動をとる」という現代の認知行動療法と類似した自己治療の系譜である。これをシャーマニズムや精神分析のような非理性による治療と対照することができるだろう。
本ワークショップでは認知行動療法のこのもう一つの系譜を辿ってみたい。理性を用い、自己をコントロールする。そのような営みとして認知行動療法を理解することによって、精神分析やユング心理学、人間性心理学などのさまざまな心理療法(これらは「非理性による治療」と言えよう)との間で認知行動療法を位置付けることが可能になるだろう。それだけではなく、認知行動療法の持つ人文学的ポテンシャルを明らかに、それを哲学などとコラボレートすることを可能にしてくれると考えられる。
具体的には『認知行動療法の哲学』に従って、まず心理療法の系譜の再考を図る。次に、本書で取り上げられた哲学的治療と認知行動療法技法を取り上げる。セルフモニタリング、認知再構成、マインドフルネスなどの技法が挙げられるだろう。これらをもとに、「理性による治療」の普遍的な価値について考察する。そのうえで、全体の討論へと進みたい。
ワークショップ3 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS3】アーロン・ベック先生が最後に発展させた認知療法を学ぶ!:リカバリーを目指す認知療法の基本
The Basics of Recovery-Oriented Cognitive Therapy for Serious Mental Health Challenges
※英語スライド、逐次通訳あり
Paul M. Grant, PhD
Director of Research, Innovation, and Practice at the Beck Institute Center for Recovery-Oriented Cognitive Therapy (CT-R)
ベック研究所リカバリーを目指す認知療法センター
リサーチ・イノベーション・プラクティスセンターディレクター
本ワークショップの終了時までに、参加者は以下のことができるようになります。
- 1. ベック博士が提唱した健康に影響を及ぼす3つの社会的因子を特定する。
- 2. CT-Rを構成する5つの中核的な要素を認識する。
- 3. 適応モードへアクセスする方法を例示する。
- 4. アスピレーションとステップを区別する。
- 5. 支持的な言動を誘導による発見に関する質問に変える。
本ワークショップは、6時間に渡る対話型セッションを通じて、リカバリーのための認知療法(CT-R)に対する理解やスキルを身につけるための基礎的なコースです。皆様が既に所持されているノウハウを基に話していくため、まず、治療者がより効果的であるためには、どのような資質が治療アプローチに必要なのか、特定していくことから始めていきます。その上で、CT-Rの理論的な背景として、健康に影響を及ぼす3つの社会的因子(繋がり、目的、エンパワメント)について議論し、重篤なメンタルヘルス状態の診断を受けた人は、しばしばその逆の経験(繋がりの喪失、目的の欠如、絶望)を経験することで、心身の健康の悪化に繋がることを説明します。そして、CT-Rは個人が自ら選んだ人生を追求することで健康を向上させるための実践的な手段であるという観点から、良い医療であるということを示していきます。CT-Rの最初のステップとして、適応モードにアクセスしていく方法を説明します。認知モデルを用いることで、人がなかなか反応を示さない理由を理解し、最初の繋がりを確立するための戦略を導き出すことができます。この流れを続けるためには、人により頻繁にエネルギー、喜び、繋がりをもたらすポジティブ・アクションを行い、適応モードのエネルギーを高める必要があります。このポジティブ・アクションを最大限に活かすための方法、つまり、行動の裏にある強力な意味(個人・他人・未来に対するポジティブ信念)に気づくための質問の仕方を紹介します。適応モードにアクセスし、エネルギーを高めることは、信頼関係を確立し、適応モードを発展させる機会を生み出します。私は、アスピレーションという概念を提示し、それについていつ話すか、そして、豊かで生成的な将来の目標と他のタイプの目標(ステップ、課題の除去、治療中心、危険、壮大で遠い願望)との違いを見分ける方法を指導します。その後、エクササイズを用いてアスピレーションを具体化させる方法を紹介することで、個人がモチベーションにアクセスし、困難でストレスの多い時期を乗り切るのをサポートできるようになってほしい。治療のこの段階では、ポジティブ・アクションはこのように広がっていきます: 1. アスピレーションに向かって動く2. 毎日アスピレーションの意味を経験する。これらは適応モードの実現と呼ばれ、目的を可能にします。私は、質問することが、アスピレーションに焦点を当てたポジティブ・アクションの影響を最大限に引き出せることを示します。この作業は、個人の最高の自己を強化します。アスピレーションを追求する中でリスクを取ることで、課題が発生する機会が生まれます。陰性症状や理解しがたい信念(妄想)を取り上げ、それぞれをCT-Rの観点から理解する方法を説明し、それらのフォーミュレーションを用いて、個別化されたエンパワメントの促進方法を説明します。最後に、リカバリーマップを紹介し、具体的な事例を通して、使い方を紹介することでワークショップを終了します。
ワークショップ4 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS4】摂食障害(神経性過食症)に対する認知行動療法(CBT-E)研修会
吉内 一浩 東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学
安藤 哲也 国際医療福祉大学成田病院心療内科
河合 啓介 国立国際医療研究センター国府台病院心療内科
佐藤 康弘 東北大学病院心療内科
平出 麻衣子 東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学
宮本 せら紀 東京大学医学部附属病院心療内科
山中 結加里 東京大学大学院医学系研究科ストレス防御・心身医学
本研修会では、英国Oxford大学のFairburnらが開発した、摂食障害を対象とした認知行動療法(enhanced cognitive behavioral therapy, CBT-E)の治療開始から終結までの概要を紹介する。CBT-Eは、英国NICEのガイドラインでも推奨されている通り、近年、エビデンスが構築されつつあり、日本においても、平成30年4月より、神経性過食症に対する認知行動療法として、診療報酬を算定することが可能となった。本研修会は、算定にあたって推奨されている研修会として、神経性過食症を中心に扱い、日本心身医学会、日本心療内科学会、日本摂食障害学会の承認済みであり、全過程に参加された場合には、3 学会からの修了証を発行する(ただし、オンデマンド配信は対象外)。
<参考文献>
「摂食障害に対する認知行動療法 CBT-E 簡易マニュアル」 」
https://www.edportal.jp/pdf/cbt_manual.pdf
ワークショップ5 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS5】統一プロトコルの集団療法における経過追跡と無反応事例への対応法
Unified Protocol Group Therapy, progress tracking, and what to do when you see no progress
※英語と日本語のスライド同時映写、逐次通訳あり
Sidse M. Arnfred, MD, PhD, DMSc, MSc.
Professor of Psychiatry, Department of Clinical Medicine, Copenhagen University
Head of Research, Mental Health Service Region Zealand, Denmark
コペンハーゲン大学臨床医学科精神医学教授、デンマークシェラン地域精神保健サービス研究責任者
Benjamin Thorup Arnfred
Copenhagen Research Center for Mental Health – CORE / Mental Health Center Copenhagen / Copenhagen University Hospital
感情障害に対する診断を越えた治療のための統一プロトコル(Unified Protocol for Transdiagnostic Treatment of Emotional Disorders; UP)は、最も有効性が確立した診断横断的な認知行動療法のプロトコルで、複数の研究において標準的な疾患特異的なプロトコルと同等の効果があることが実証されています。私たちは、デンマークにおいて集団版を開発し、現在広く実施されています。UPでは、妥当性が検証された5項目の不安の尺度(不安の重症度と生活障害の全般尺度:Overall Anxiety Severity and Impairment Scale; OASIS)と、抑うつの尺度(抑うつの重症度と生活障害の全般尺度:Overall Depression Severity and Impairment Scale; ODSIS)を使用して、毎週、患者報告アウトカムの経過を追跡し、治療者と患者が改善を確認しながら進めます。しかしながら、集団療法は他の心理療法と同様に全ての患者に効果があるわけではなく、経過を追跡してみると、治療者が期待するような経過を示さない患者が必ず出てきます。個人療法では、治療が停滞し状態が悪化する患者に対して治療アウトカムの確認し、治療上や生活上の困難に対応することの有効性が広く報告されています。一方、集団療法ではこのような対応はあまり確立されておらず、知見が混在しています。おそらく、集団療法の場合にはプロトコルがを柔軟に変更しづらく、グループ内の個々人に対してうまく対応を変えていく余地が少ないことがその要因だと考えられます。このような理由から、私たちは進行中の集団療法をサポートし、グループとしては十分に扱えない問題に対処するため、アルゴリズムと患者の好みに基づく、補助的な個人療法を開発しました。この研究は、現在進行中です。
本ワークショップでは、講義と、事例を用いたグループワークを交互に実施するため、積極的な参加が期待されます。ケースの資料と文献は事前に配布します。
セッション1:集団UPのマニュアルを簡単に紹介して、モジュール5「感情行動とは反対の行動をとる」を集団療法でどのように実施するのかに焦点を当てます。ロールプレイのデモンストレーションの後、グループエクササイズで、標準的なCBTにおける回避とUPにおける回避の主な違いについて話し合います。
セッション2:患者報告アウトカムとアウトカムの経過追跡の仕方を紹介します。UPにおける測定尺度の活用として、ODSISとOASISの実施法をデモンストレーションし、臨床支援ツールの一例について説明します。 集団療法の中から4症例のODSISの記録を提示して、グループエクササイズでは、どのような場合に注意を払うべきか、どのような介入を集団内または集団外で実施するべきかについて議論します。
セッション3:集団療法を進めるなかで実施できる補助治療モデルについて概説し、患者の好みを探索する共有意思決定のセッションと、5回の追加個人セッションで取り組まれる4つのテーマについて説明します。この4つのテーマには以下が含まれます。
1)見過ごされていた精神病理に対する治療的なアセスメント
2)治療の進展を妨げる要因に対する協同的な事例の概念化
3)患者の生活環境や人間関係の問題に対処するリカバリー志向のネットワークミーティング
4)治療への関与が低い患者に対する動機づけのワーク
グループエクササイズでは、先に紹介した2つの事例を用いて、共有意思決定セッションのロールプレイを行います。
ワークショップ6 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS6】ハーバード大学児童精神科医に聞く!児童の診かたと診療のtips
大久保 亮 国立帯広病院 / 北海道大学
内田 舞 Assistant Professor of Psychiatry, Harvard Medical School
Director, MGH Child Depression Program
荒嶽 達也 国立帯広病院精神科
ハーバード大学で児童精神医学の臨床・研究・教育に従事している内田舞先生に、児童の診かたと診療のtipsを聞きます。内田先生は2007年北海道大学医学部卒業後すぐに渡米し、15年間アメリカで精神科医療に従事されています。
児童・思春期では、成人に比べて薬物療法の使用に注意を要することが多いため、認知行動療法的な見立てや介入が重要です。本ワークショップでは、内田先生に認知行動療法的な児童の診かたと診療のtipsについて対談形式で知見をお聞きし、参加者とともに深めていきます。ワークショップは二部構成で行います。前半では、児童を診る時に多い以下の問題に対して、どのように見立て、介入を検討していくべきか、実臨床での例を挙げながらお話しいただきます。いただいたお話に対して中堅の精神科医である大久保、若手精神科医である荒嶽から適宜質問を交え、時に参加者からの質問も受け付けながら、対談形式でそれぞれの問題についての知見を深めていきます。
- 1.落ち着きない子供(ADHDを中心に)
- 2.子どもの「うつ」
- 3.子どものmood swing
- 4.見過ごされがちな「不安障害」
- 5.子どものひきこもり
- 6.乱暴な子供や自傷をする子供
後半では、息子3人(6歳、5歳、1歳)の子育て中の経験から、母親として、児童精神科医として、どのようなことを考え、日々関わっているかをお話いただきます。片付けをしようとしなかったり、わざと水をこぼしたりするような行動に対してどのように考え、関わったのか?具体的な経験からお話いただきます。内田先生はヘルスコミュニケーションにも力を注いでおり、子供の心や脳の科学のみならず、新型コロナワクチン、アスリートのメンタルヘルス、ミソジニーの問題などにも積極的な情報発信を行っています。時間が残れば、そのような知見についても、参加者と議論する機会としたいと考えています。
参加に際して、児童精神医学での経験は不問です。本ワークショップでは、子供に関わる方に広く参加いただけるように、可能な限り平易にわかりやすく話をすることを心がけます。むしろ普段児童を専門としない方にも参加いただき、仕事のみならず実生活の場面でも役に立つような知見を得てお帰りいただくことを目指します。ワークショップではなるべく質問を広く受け付けたいと考えていますが、円滑な進行のために質問を途中で遮ることや、後日の回答へまわさせていただくことも場合によってはありますので、参加の際にご了承いただければと思います。
ワークショップ7 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS7】制止検索アプローチによる曝露療法の最適化
Optimizing exposure therapy with an inhibitory retrieval approach
※英語と日本語のスライド同時映写&配布、逐次通訳あり
Michelle G. Craske, PhD
Professor of Psychology, and of Psychiatry and Biobehavioral Sciences, Kevin Love Fund Centennial Chair, Director of the Anxiety and Depression Research Center
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の心理学、精神医学、生物行動科学教授/同大学の不安・うつ研究センター長
恐怖症や不安症の治療戦略として、曝露療法をくり返し行うことが有効であるが、治療に反応しない人や、恐怖を再発させる人は相当数にのぼる。消去学習についての基礎科学は、曝露療法の治療反応割合を高め、療法後の恐怖の再発を減らす戦略を与えてくれる。本ワークショップでは、恐怖、不安、回避を長期に軽減させる主要なメカニズムとして、制止学習と検索に重点を置く曝露療法のアプローチ(すなわち、制止検索モデル)を紹介する。本ワークショップでは、まず恐怖の消去とその曝露療法への応用について概説する。次に、治療戦略をそれぞれに説明する。はじめに、曝露療法において期待背反expectancy violation(i.e., 予測誤差prediction error)を最大化するための包括マップ、OptEx Nexusを取り挙げる。OptEx Nexusは、あるCS-US連合に対する期待に関与するすべての要因:嫌悪な結果(the US)、予測子predictors(CSs)、状況構成子occasion setters、制止子inhibitors(安全信号)を特定するためのもので、恐怖の強さで曝露課題を並べる従来の不安階層表に取って代わるものである。曝露戦略は3領域に分類される。第一は根本戦略で、予測誤差/期待背反(expectancy violation)(制止学習ともいう)を最適化する曝露デザイン、制止学習に必須の恐怖刺激/状況への注意の維持、制止学習を弱める安全信号の除去、制止学習を定着させるための曝露後のメンタルリハーサルが含まれる。第二は応用戦略で、予測誤差を最適化するために、ひとつ以上のCSへ曝露するという「深められた消去deepened extinction」や、否定的な結果を時々経験する「時折強化された消去occasional reinforced extinction」がある。第三は学習の汎化を促し、これにより恐怖の再発を減らす。心的復元mental reinstatement、検索手がかりretrieval cues、複数の文脈multiple contexts、刺激の多様性stimulus variability、ポジティブ情動がある。
注)OptEx Optimizing exposure therapy
ワークショップ8 【現地】【ライブ】【オンデマンド】
【WS8】統一プロトコル:感情障害に対する診断横断アプローチ
The Unified Protocol: A Transdiagnostic Approach to the Treatment of Emotional Disorders
※英語と日本語のスライド同時映写&配布、逐次通訳あり
Todd Farchione, PhD
Research Associate Professor in the Department of Psychological and Brain Sciences at Boston University (BU)
ボストン大学心理学・脳科学部の研究准教授
不安、うつ、それらに関連する“感情的な”障害についての近年の概念化においては、これらの違いよりも類似性が重視されています。それに応じて、各障害の治療に特化した伝統的なマニュアルではなく、これらの障害に共通して関係する心理過程に注目する治療アプローチに関心が集まっています。これら“診断横断的な”治療は、費用対効果が高い可能性があります。また、公衆衛生上の大きなニーズに応えられるよう、エビデンスに基づく治療をより広く届けることに貢献できる可能性があります。
感情障害に対する診断を越えた治療のための統一プロトコル(UP)はボストン大学の研究者らによって開発され、実証的な支持を得た診断横断治療プロトコルとしてもっとも知られ、広く活用されています。UPは感情に焦点を当てた認知行動治療であり、5つの中核モジュールから構成されます。これらのモジュールは、DSM診断で区別されるような表に出ている症状ではなく、不安・うつ・関連障害の全てに通底する気質的な特徴―特に神経症傾向とその結果としての感情調整不全―を標的とするよう開発されています。
この導入ワークショップでは、UPの共同開発者が講師を務めます。そして、不安やうつといった広く見られ(また併存しやすい)メンタルヘルス障害に対して、この革新的な治療を適用する知識とスキルをお伝えします。まず、理論を含めてUPの簡単な概要と、気質的な変化のメカニズムを紹介します。次に、UPの中核モジュールを紹介し、いかに臨床実践するかをお伝えします。その際、伝統的なCBTとUPとの違いについても説明します。中核モジュール(e.g., マインドフルな気づき、感情曝露)の実際について音声や映像で紹介します。このデモンストレーションの一環として、参加者の方々にはエクササイズをしていただく予定です。
教育目的:
- 不安、うつ、関連障害に通底する中核的な気質特徴と感情調整不全を特定できるようになる。こうしたプロセスがUPの診断横断フレームワークにおいていかに査定され、標的とされるかを説明できるようになる。
- UPでの感情に焦点を当てた5つの方略(マインドフルな気づきを高める、認知柔軟性を促す、感情回避パターンを特定し減らす、身体感覚への気づきと耐性を高める、内部感覚曝露、感情曝露)を、併存する感情障害を呈する患者にいかに適応するかを学ぶ
- 不安、うつ、複雑な併存症を有する患者に対して、効果的で包括的な感情曝露課題を作成できるようになる
対象者:メンタルヘルスを専門とする方。必要な経験年数やオリエンテーションはなく、初心者から熟練者まで。ただし、不安症や気分障害に対する認知行動アプローチについていくらか学んでおられる方。